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日本連盟の危機突破へ
一気に改革を進める

佐野友保 日本連盟専務理事に聞く

 

――― 日本連盟の現在の経営状況を教えてください。

佐野 日本連盟の財政は2017(平成29)年ごろより、かなり厳しい経営状況でした。日本連盟創立100周年を目指して長中期計画で策定した「活動的で自立したスカウトを育てよう!!」という目標に継続して取り組むためにも、財政基盤を強化することが求められています。なによりも加盟員の減少が収入を年々減少させています。そして、年間3億円に及ぶ管理費用すら賄えない状況になりつつあり、都道府県連盟ならびに加盟員の皆さんのご理解を得て、昨2019年に7年ぶりに加盟登録料を改定させていただきました。

――― 登録料の値上げで問題は解決したのでしょうか。

佐野 おかげさまで、登録料の改定により2019年度は収入が1 億6,000万円増え、特定資産に6,620万円繰り入れできることになりました。2020年度も予算段階で引き続き8,450万円繰り入れする予定です。しかしその前提は、スカウト数の減少に歯止めがかかるかによります。当面は、過去に取り崩した特定資産の回復に充てたいと思います。将来や今後の活動に備えるためにも、一時的な財政のゆとりだからといって支出を増やすつもりはありません。登録料の値上げを前提にした財政ではなく、事業や業務の在り方の改革、そして予算の効率化をスピーディーに実行していきたいと思います。

――― 登録人数は下げ止まっていないのですか。

佐野 全体ではまだ減少が続いていますが、2019年度は「スカウト」の「新規」登録が前年度に比べて5% 増え、明るい兆しが見えてきたと期待しています。ひとりでも多くの仲間を増やそうという団や地区、県連盟の皆さんの努力の結果と感謝申し上げます。スカウトを増やすには、活動の質を高めることがなにより重要で、そのための経費は惜しまないつもりです。

――― 財政を立て直すには、登録料以外の収入を増やす必要があります。

佐野 もちろん、日本連盟の収入は登録料だけではありません。本運動にご理解いただいてる維持会員の皆さんの維持会費、スカウト用品販売からの収入、そして長中期計画の財政改革のひとつである保有資産の活用による収益の確保です。また企業からの連携支援も欠かせません。2018年度と2019年度の収入では、企業と連携した新チャレンジ章(コラボレーションバッジ)などが成果を上げています。今後は登録料の在り方を見直し、より幅広い方々に日本のボーイスカウト運動を支えていただけるようにしたいと思います。

――― そうはいっても、支出を抑えることも重要ですね。

佐野 従来の事業の効率化を進めるとともに、新規の事業は行わないなど、各委員長に依頼して事業全体の見直しました。ただし、指導者養成費用など、重要だと考える経費には予算を重点的に配分し、指導者やスカウトの皆さんの活動を支えるための予算については、基本的に前年度実績並みの予算を確保しました。年間3億円かかっている事務局の維持管理費の圧縮にも取り組んでいます。2020年度は、予定した特定資産への繰り入れを満額実施したうえで、収支相償の予算としました。

――― 管理経費の3 分の2 は職員の人件費です。これにはどう対応するのですか。

佐野 2020年度から抜本的な人事制度の見直しに着手します。定年は62 歳ですが、60歳以上の昇給を停止し、事務局幹部の役職手当を引き下げることで、2020年度の退職者を除いた職員の給与賞与総額を前年度並みに留める予算にしました。この改革は、日本連盟の財政を安定させ、事務局職員の雇用を安定的に守るためにも不可欠です。一部の方からリストラせよという厳しい声も寄せられていますが、採用した以上、私たちには雇用責任があると考えています。職員の皆さんにも、働き方も見直すことで効率を高め、残業を極力減らすことをお願いしています。

――― しかし、職員は慢性的に残業状態が続いていると聞きます。

佐野 絶対に必要な事業は守るとして、加盟員の活動に直結しない事業などは止めるなど、大胆な見直しを行います。また、職員任せになりがちだった大会の準備などに、これまで以上にボランティア指導者の皆さんに関わっていただくことも必要です。さらに、ジャンボリーの開催場所を固定化することでインフラ整備にかかる費用を圧縮したり、全国大会を各ブロック持ち回り開催にして十分な準備時間を設けたりすることなども検討していきたいと思います。これにより、職員の業務負担は大きく軽減されると考えています。

――― 理事や委員など日本連盟役員の経費が大きいのでは、という声も聞きます。

佐野 それは違います。むしろ理事は全員無給ですし、委員も含めた皆さんには時間と奉仕、維持会費納入もお願いしています。さらに寄付金や賛助金集めに貢献している理事も多くいます。そうした状況は前年度分から「ガバナンス報告書」として公表することにしました。会議に集まるための交通費圧縮を目的にしたテレビ会議の積極的な活用や会議のペーパーレス化は、この数年で定着しました。

――― スカウト用品を扱うボーイスカウトエンタープライズの改革を進めました。

佐野 在庫を抱えて資金難に陥っていたエンタープライズの立て直しは、一定のメドがつきました。今後はスカウト活動の役に立つ、皆さんに購入していただける製品を開発し、販売します。用品の収益は、日本連盟のロイヤリティ収入になるだけでなく、最終的な利益もすべてスカウト運動に還元されます。スカウトショップではインターネット販売も本格的に開始しましたので、大いに利用していただきたいと思います。また、必要な書籍についてはできるだけ廉価で頒布する仕組みを導入するほか、ホームページからの無償ダウンロードなどもできるように改革を進めます。

――― 日本連盟の理事会および委員会は高齢化が著しいという声もあります。

佐野 10年間理事長を務めていただいた奥島孝康先生が退任されることもあり、若返りを進めていきます。5月の全国大会時に就任する新任理事には40歳代、50歳代の若手を登用しました。委員会には女性や40歳未満の指導者も委員に加えるよう、各委員長に要請しています。すぐには難しいかもしれませんが、100周年までには相当若返ると思います。当たり前のことですが、理事や委員は名誉職ではありません。実際に仕事をしていただけることを条件に委嘱しています。

――― 改革を終えて財政を安定させるメドは。

佐野 2017年に「非常事態宣言」を出された奥島理事長は、2022年の100周年には反転攻勢をかけたいといっておられました。これからさらに少子化が進むなど環境は厳しさを増しますが、スカウト運動の魅力を広めることで、本運動が社会に役立つ青少年を少しでも多く育成することができるよう、スカウトおよび指導者を増やしていき、さらに、100周年には加盟員減少が底を打つことを目標にしたいと思います。財政を健全に保つには、仲間を増やすことが絶対必要なのです。

(聞き手:理事/前社会連携・広報委員長 磯山友幸)

ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2020年5月号より

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