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<機関誌「SCOUTING」2023年11月号の記事を本サイトにも掲載しております。内容は機関誌発行当時のものです。>

今号に報告が掲載されている静岡でのローバースカウト集合訓練。テーマは「防災・減災でスカウトができること・やるべきこと」ですが、「できること・やるべきこと」がテーマになっているのは、ローバースカウトたちがそれに気づいていないのではないかという考えがあるからです。ここでは全団調査から⾒えてくるこの部門の状況と課題について述べていきます。
全団調査では、⼀昨年の全団調査2021と昨年の全団調査2022 でローバースカウト部門に関する調査を⾏いました。
ローバースカウトの多くは他隊の指導者として奉仕

まず、⼀昨年の全団調査2021から、多くのローバースカウトは他隊の指導者として奉仕していることが分かりました(グラフ1)。昨年の全団調査2022で主な活動を調べたところでも、「他部門への奉仕」が圧倒的に多いことが分かりました(グラフ2)。ローバースカウトたちは、あまり「独自の活動」をしていないようです。
さらに「独自の活動」と考えられる「他部門への奉仕」以外のローバースカウトの活動を⾒ると、交流会やイベントの企画、地域活動への参画が大半で、仲間で集まって何かをするか、与えられた活動や⾏事に参加することが多いことが⾒えてきます。自ら企画する社会活動や奉仕活動は低調です。仲間で集まって何かをするか、与えられた活動や⾏事に参加するということでは、地区や県連盟でのローバー活動への参加も結構あるようです。

ローバー隊の人数構成

グラフ3を⾒ると、隊あたりのローバースカウトの数は、大学の多い都市部と、大学の少ない地方では、かなり差があります。地方でローバースカウト数が少ないのは、進学先がないため地元から離れてしまうスカウトが多いことが原因だと考えられます。さらに、グラフ1で「登録はあるが活動実績なし」のスカウトが相当数いるのは、地元を離れたけれど登録は本籍に残したままで、実際には何も活動していないローバースカウトが多いことを示しています。
団には、活動できるローバースカウトがほとんどいない実情があります。その中でローバースカウトが活動しようとすると、人数が集まる地区や県連盟での活動が主体になるのは、やむを得ないでしょう。そこで問題は、地区や県連盟でのローバースカウトたちがどのような活動をしているかです。残念ながら、全団調査は、各団への調査ですので、地区や県連盟の実態は分かりません。

ローバースカウトの活動内容を探る

しかし、ローバースカウトが取り組んでいる個人プロジェクトについてはさらに詳細な調査があり、それによってスカウトたちの「発想」はうかがい知ることができます。そこから、地区や県連盟などのローバー活動の様子も推測できます。では、どのような個人プロジェクトをしているのでしょうか。個人プロジェクトの内容についての50数件の回答の中で、ベンチャー活動と同じか少しレベルを上げた野外活動が約半数。後は、ボーイスカウトでの⾏事への奉仕と海外派遣があり、ボーイスカウト外へ目を向けた社会貢献・奉仕活動は数件に留まりました。
これは、ローバー活動の前の段階のプロジェクト活動を中心としたベンチャー活動が十分にできていないことを意味すると思われます。さらにいえばその前の段階の班制教育を中心とし、野外での技能を学ぶボーイスカウト活動が十分にできていない。つまり本来、部門の目標として設定されている達成課題をクリアせずに上進している。そのような状況が垣間⾒えるのです。これでは、ローバースカウトに「独自の活動」を奨めても、教育の目標にかなったものにはなりません。

ローバー隊の状況

活動内容とは離れますが、ローバー隊の活動として教育規程にも明記されている「隊で定める自治規則」は設定されているか。グラフ4に示されているように、半数以上の隊では、自治規則は制定されていません。自治規則がない隊は、隊としての目標の置きどころがないことになります。また、グラフ5から議⻑などの代表スカウトも半数近くの隊が選任していないようです。
つまり半数のローバー隊は、規程どおりに活動していない。しかし、グラフ3から、1人、2人の隊が多くを占めており、自治規則や議⻑を決めるまでもない隊が多いのも事実。規程どおりしていないのではなくて、できないというのが実情のようです。

ローバースカウト部門の教育

以上のように⾒てくると、ローバースカウトが目標にかなった活動ができないのは、現にローバー活動をしている隊の人数や指導の環境と、この部門に至るまでの教育環境が原因であろうことがわかってきます。
現在の隊の環境は、地区や県連盟、あるいは今回の集合訓練やローバーアカデミーのような日本連盟での取り組みで補完することが可能ですが、この部門に至るまでの教育環境は、ボーイ隊やベンチャー隊での活動をしっかりできるようにする取り組みが問われることだと思います。ローバースカウトは、スカウト教育の到達点であり、スカウト教育の成果を身をもって示している者であるはずです。そこができていないというのは、私たちの運動の価値が十分に高まっていないことを意味します。昨年度には『スカウト・⻘年の参画方針』が定まりましたが、方針は定まっても、⻘年としてのローバースカウトが、この運動に関わらせるに足る存在であるかも問われます。
日本連盟としてローバースカウトたちへの支援に軸足を置いているのは、そのようなことがあるからです。全団調査は、ローバースカウト一人ひとりに対しての調査ではありません。隊の状況を調べているだけではありますが、そこからもこの部門の課題が⾒えてくるのです。

教育規程より
7-30 ローバースカウトの教育

ローバースカウトの教育は、スカウトが「ちかい」及び「おきて」を各自の生活に、より強⼒に具現化する機会を与えるとともに、自らの有為の生涯を築き、社会に奉仕する精神と体⼒を養うことを目指すものとする。

7-31 ローバースカウト活動の目標

ローバースカウトの活動の目標は、次のとおりとする。
⚪ 明確な信仰をもち、自⼰の所属する教宗派の⾏事に進んで参加する。
⚪ 高度の野外活動により、心身を鍛錬しスカウト技能を磨き奉仕能⼒を向上させる。
⚪ 自ら課題を設定し、調査、実験及び実習によってこれを研究し、自⼰の生活を更に開発する。
⚪ ビーバー隊、カブ隊、ボーイ隊⼜はベンチャー隊の訓練指導に協⼒し、奉仕する。
⚪ 地域社会への認識を深め、地域に貢献する。
⚪ 国際組織、国際社会の⼀員として、相互理解を深め、国際活動、国際協⼒について学び実践する。

7-32 ローバースカウト活動の実施

ローバースカウト隊の活動は、隊で定めた自治規則に則り、活動の目標を定めて運営され、スカウト自ら実施する自⼰研鑽と、隊が⾏う奉仕活動その他の社会活動によって⾏われる。

詳しくは日本連盟WEBサイトの全団調査のページよりご覧いただけます。

ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2023年11月号にも掲載している内容です

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