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指導者訓練における自己研鑚


日本におけるスカウティングの創成期から、指導者訓練は体系的集合訓練とともに、指導者自身が学習や研修を進める「自己研鑚」という形で展開され、多くの指導者がスカウトとともに成長してきました。「自己研鑚」という言葉は、自分自身で学問などを深く究めるという意味です。ボーイスカウトの活動において、これは単なる取り組みとしてではなく、指導者が自身の責務として行うことです。今号では、指導者の「自己研鑚」について改めて考えてみましょう。

スカウト運動における成人に関する世界方針

世界スカウト機構(WOSM)は、下記の4つのポリシーに従って、スカウト運動を推進しており、「世界青少年プログラム方針(World Scout Youth Programme Policy)」と「世界スカウト青少年参画方針(World Scout Youth Involvement Policy)」を有効に進めるために、「セーフ・フロム・ハーム世界方針(Safe from Harm World Policy)」と「スカウト運動における成人に関する世界方針(Adults in Scouting World Policy: 以下、AIS ポリシー)」がそれらを支える役目を担います。

AISポリシーでは「スカウトの教育、成長のためには成人の関わりが不可欠である」として、スカウトとの関わり方を示すだけでなく、スカウトが活動を通じて成長することに成人が寄与するためには、関わる成人にはさまざまな研修が必須であり、特に「スカウティングに関わることによって、成人自身がさらに成長することも必要である」としています。つまり、スカウトのみならず指導者自身の成長を促し、ともに成長することがスカウティングの本質であるとしています。

成人のライフサイクル

WOSMはAISポリシーの中で下図のような「成人ライフサイクル」を明示しています。これは、スカウティングに関わるすべての成人が、この運動に関するすべての段階において、その役務および任務の遂行に対して支援を受け、それぞれに必要な知識や技能を習得することで成長し、その能力がスカウト運動に十分に発揮できるよう体系的に明示されたものです。このライフサイクルにより、個人の能力をさらに向上させ、適切な機会で活用できるように推進していきます。

実際には成人のライフサイクルにおいて、「イン・サービス・サポート( 任務中の支援)」や「トレーニング」を受けることで任務を遂行していきますが、それら双方において自己研修の必要があります。普段から自己研修を行うようにし、トレーニングに参加した後に不足している部分を補完したり、他者から支援を受けたりするなど、たゆまぬ自己研修が自分自身の成長とともに、スカウトを成長へと導いていきます。

スキルトレーニングに挑戦しよう

スキルトレーニングは指導者への第一歩! 難しいことはまったくありません!  スキルトレーニングは、「野外を中心とした活動を通じて青少年を育成、指導できる指導者」および「スカウトや保護者に支持されるプログラムを提供できる指導者」の養成を目指して行うものです。ビーバースカウト部門からローバースカウト部門まですべての指導者が、プログラムを展開するための道具としてスカウトスキルを身につけることで、より冒険的な活動を展開できるようになります。指導者として必要最低限のスカウトスキルをトレーニング項目に設定し、魅力的かつ安全な活動が展開できるようになることをスキルトレーニングのねらいにしていますので、「ビーバー隊指導者だからスカウトスキルは必要ない!」ではなく、指導者がスカウトスキルを活用したプログラムを展開することで、年少部門でも「ボーイ隊になったら、あんなに楽しい活動ができる」と、ボーイスカウトらしい活動をスカウトに味わわせることができるよう、さまざまなスキルを身につけましょう。

コロナ禍でも取り組める
スキルトレーニング項目を再確認しましょう!

『スカウトスキル・セレクション』
日本連盟発行

コロナ禍により、これまでのように大勢で集まってプログラムを実施することは難しい状況ですが、スカウトスキルは自宅に一人でいるときにもトレーニングすることが可能です。『スカウトスキル・セレクション』(日本連盟発行)には、スキルトレーニングの項目それぞれのトレーニング方法を記載しています。今だからこそ、指導者自身がスカウトスキルを身につけるチャンスです。そしてそれは、新たなプログラムの開発をするチャンスでもあります。


スキルトレーニング履修項目一覧

1.ロープワーク 1.次のロープ結びについて実演できる。
• 本結び
• ひとえ継ぎ
• ふた結び
• もやい結び
• 8の字結び
• てぐす結び
• 巻き結び
• ねじ結び
• ちぢめ結び
• 引きとけ結び
• 馬つなぎ
•トートラインヒッチ
• 垣根結び
• 角縛り
• 筋かい縛り
• アイスプライス
• バックスプライス
• からみ止め
2.地図とコンパス ⑴ 16方位と方位角の呼び方をおぼえ、プレートコンパスを使用することができる。
⑵ 地形図に座標軸および磁北線を記入し座標読みができる。
⑶ 地形図上に示された2個の目標物と現在地点との方位角、標高差、および道路に沿った歩行距離を読むことができる。
⑷ 地形図上に示された10種10個以上の地形図記号を判別することができる。
⑸ 1線式または2線式路線記録法により野帳を記入し、略地図を作成できる。
3.野営技能(野営工作、野外炊事含む) ⑴ 家型テントの設営、撤営と維持管理ができる。
⑵ フライテント(タープテント)の設営、撤営と維持管理ができる。
⑶ 班サイトの設計と維持管理ができる。
⑷ BS 隊を想定した3泊以上のキャンプを経験する。
⑸ 班の炊事に適する2種以上のかまどを使い、薪で炊事ができる。
⑹ 薪以外の燃料を2種以上使用して炊事ができる。
⑺ 食料の貯蔵と保管方法について説明できる。
⑻ 班キャンプに必要な野営工作物を2種以上作成し、活用することができる。
⑼ キャンピング中の危険防止と衛生を保つ方法を説明できる。
4.通信(手旗、信号、サイン等) ⑴ ハイキングにおいて自然物を利用した追跡記号を通信文を含めて配置できる。
⑵ カタカナ手旗信号で20字程度の通信文を意味を間違えずに発信・受信できる。
5.刃物の取り扱い ⑴ 刃物の携帯に関する法律について説明できる。
⑵ ナイフの正しい使い方と安全について説明できる。
⑶ ナイフの研ぎ方が実演できる。
⑷ なた、オノの正しい使い方と安全について説明できる。
⑸ なた、オノの研ぎ方が実演できる。
6.計測と簡易測量 ⑴ 100メートルの距離を誤差5% 以内で歩測できる。
⑵ 簡易測量法を用いて、到達できない2点間の距離を測る。
⑶ 簡易測量器具を用いて樹木などの高さを測る。
7.救急法 以下の職業に従事する者、および各種講習会修了認定者は7救急法について履修認定する。
• 医師
• 看護師
• 日赤救急法救急員養成講習修了者
• 消防局消防本部による上級救命講習認定者
※ただし、⑹については、上記有資格者であっても、履修認定が必要となる。⑴ 他の人に次の応急手当ができる
• うちみ
• 手首足首のねんざ
• 目のちり
• 足のまめ
• 虫さされ
• 切り傷
• やけど
• ひどい日焼け
• 鼻血
• 毒蛇にかまれた傷
• 犬にかまれた傷
• 熱中症
⑵ 直接圧迫止血法ができる。
⑶ ショック、食中毒、ガス中毒のそれぞれの症状を知り、応急処置ができる。
⑷ 心肺蘇生法が正しくできる。
⑸ AEDの取り扱いが正しくできる。
⑹ 他の1名と協力して急造担架が作れる。

自宅でできるスカウトスキルトレーニング

まずは日本連盟が発行している書籍類を見直してみましょう。特に、前述の『スカウトスキル・セレクション』には、ビーバー、カブ、ボーイ、ベンチャースカウト各隊で、すぐに実行できるプログラム展開例を記載しています。プログラムを展開するためには、その活動に必要なスキルを覚えなければなりません。どのようなスキルを身につけなければならないか、ポイントを自分で確認しましょう。

自己のスキルを確認

一人では、練習したスキルが本当に正しいのか、不安に思うこともあるかもしれませんが、オンラインで映像を通じて仲間に見てもらうことにより、確認を進めることもできます。

ロープ結び(ノッティングボード)

ポイントを確認しながら結び方を覚えましょう。このとき、2色のロープを使うことで、さらに結びの構造が一目で分かりやすくなります。自分が覚えた結び方をいつでも確認できるように、ノッティングボードを作るのも有効です。結びの名称や用途なども記載できると、より良いものになります。

パイオニアリング(ミニチュア製作)

結び方を覚えたら、結び方の用途や特徴を踏まえて、ミニチュアパイオニアリングを作りましょう。割り箸や丸棒などを材料に、ロープはたこ糸を使い、丸太を縛るように工作物を作ります。

バーチャルハイキング
ハイキングを行うためには、コンパスの使い方、地図の読み方、地図記号や16方位などを覚える必要があります。国土地理院の地形図を使用し、地形図上でマップメーターや座標定規を使って野帳をつけてみましょう。同時に、グーグルマップなどを活用してハイキングコース周辺の観察をしたり、活動場所付近のAED設置場所を調べて確認したりするのもいいかもしれません。

救急法

三角巾の使い方や急造担架の作り方を確認してみましょう。また、救急キットに必要なものを考え準備したり、使用期限切れのものがないか確認するなどのメンテナンスも大切です。専門的な応急処置の知識については書籍などから学習できますが、実技を伴う応急処置についても、自宅で自分自身でできることを繰り返し練習し、救急時の事前準備として身につけておきましょう。

『スカウティング フォア ボーイズ』

『スカウティング フォア ボーイズ』を改めて読んでみましょう。さまざまな挿し絵やゲームなどが物語の一部として描かれており、具体的なゲームの方法などを参考にすることができます。簡単に活動に取り入れられるものもあるので、プログラムの材料として覚えておくとよいでしょう。

ここで紹介したスキルトレーニングは、単純に方法を学ぶだけではなく、スカウト運動の創始者ベーデン- パウエルが言った「スカウティングはゲームである!」のとおり、ゲームを楽しく行うための手段になります。ゲームの道具としてスカウトスキルを身につけ、その知識や技能をスカウトへ伝えていくことが指導者の役割でもあります。指導者がスカウトスキルを身につけ、それを実践することが、日本のスカウティング全体を活性化することにも繋がります。

 


スキルトレーニングの参考書籍

新しいボーイスカウト講習会

ボーイスカウト講習会は、新たに指導者として活躍していただく方への「導入訓練」として、また保護者を含めた多くの方々にボーイスカウト活動を知っていただくことを目的として開設しています。今年度から内容を改定して展開していますので、ここで改めて紹介いたします。

改定のポイント

講習会に参加することで「自分でもやってみたい」「(保護者として)子どもにやらせてあげたい」「(ローバーとして)これからも活動を続けたい」と実感してもらえるよう、より体験的な方法を取り入れるほか、動画などを活用することでボーイスカウトのイメージを視覚的に理解できるようにしています。

講習会の流れ

講習会は7時間で、開催時間はこれまでと変更ありませんが、5つあるセッションの時間配分を見直し、体験の時間に重点を置くことで、一日の流れにメリハリをつけています。

講習会のトピック


 

スキルトレーニングの取り組みについて、よくわからない細目や自信のない細目があったら、まずは団内の指導者同士で相談してみましょう。スキルトレーニングは、2級スカウト章と1級スカウト章レベルのスカウト技能ですので、あなた自身の少しのやる気と努力、そして団内で手助けを得ることですぐにできるようになります。この機会に身近な団の仲間の支援を受けながら、スキルトレーニングによってスカウトスキルを身につけてください。地区や県連盟では、スカウトスキルやキャンプスキルについて、定型外訓練を実施しているところもあります。このような機会を通じてスキルトレーニングを認定してもらうこともできます。スキルトレーニングの細目の認定については、日本連盟トレーナーやスキルアップアドバイザーが認定します。もし身近に認定者がいない場合は、地区や県連盟のコミッショナーに相談し、紹介してもらうようにしましょう。今回は、指導者の自己研鑚として、コロナ禍でもできるスキルトレーニングを中心に確認しました。スカウトの進級同様に指導者も自己研鑚を積み、多くのスカウトの育成に関わっていきましょう。


日本連盟ホームページにおいて「AISポリシー」ほか、WOSM が発行している各種資料を公開しています。特定分他の責任者向けのものやコミッショナーを対象としているものもありますが、参考資料としてご覧ください。


https://www.scout.or.jp/member/wosm_documents/

ボーイスカウト日本連盟機関誌「SCOUTING」2020年11月号より

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